m3.comからインタビューを受けました

m3.comからインタビューを受けました。希少がんセンター長の横山幸浩先生を中心に、センターメンバーが取り組み内容などをお話しております。

【取材・文=m3.com 鈴木満優子氏 https://www.m3.com/

 

 

【愛知】東海地方における希少がん診療の中心に-横山幸浩・名古屋大学医学部附属病院希少がんセンター長らに聞く◆Vol.1

 

特殊な希少がんの知見を集約的に蓄積

 

 「希少がん」と総称される悪性腫瘍には、実に200種類近い種類がある。各々の症例が少ないために、情報が蓄積・共有されず、診療できる医療機関も限られている。希少がん患者はこれまで、適切な情報や自身のがんを治療対象とする医療機関を探してさまよっていた。この状態を改善すべく、国は希少がん対策を開始し、名古屋大学医学部附属病院も希少がんセンターを設置した。同センター長の横山幸浩氏、同センター副センター長の西田佳弘氏に、センター設置の背景と意義について聞いた。(2024219日インタビュー、計2回連載の1回目)

 

横山幸浩氏

 

――医療者においても、希少がんについては詳しくない人が多いと聞いています。そもそも希少がんとはどんなものですか。

 

横山 希少がんは人口10万人あたり6例未満のがんとされていますが、詳細については厚生労働省が定義を定めているところです。肉腫や脳腫瘍などは比較的知られているかもしれませんが、頭頸部のがんや十二指腸がん、心臓腫瘍なども希少がんです。よく知られている小児がんも、小児に発生する希少がんの集まりです。

 

 希少がんは症例数が少ないためにデータが不足しています。臨床試験を大規模に行うことも難しいためエビデンス創出が容易ではなく、保険で認められている薬剤も限られています。またたとえ治療法があっても、治療の経験が豊富な医師・医療機関は限られています。日々忙しく診療を行っている医師が、まれにしか遭遇しない希少がんについて文献にあたって知識を蓄積し、治療を実践することは現実的に難しいと思います。このような実情のため、国としては希少がんへの取り組みを体系立てて行うことの重要性を認識し始めたのだと思います。

                                                                                 

――国は希少がんについて、どんな取り組みをしていますか。

 

西田 これまで国は5大がんにフォーカスし、がん検診の推奨や標準治療の確立を推進してきました。その次の課題として、10年ほど前からAYA世代のがんや希少がんが取り上げられるようになったと感じます。当時希少がんにフォーカスして取り組んでいたのは、国立がん研究センター希少がんセンターだけでしたが、ここ6〜7年は国から各大学病院等に研究費も出るようになり、希少がんに関する研究や治療の充実に向けて機運が高まっています。2023年に開始された第4期がん対策推進基本計画にも、第3期から引き続いて希少がんへの言及があります。

 

 まずは情報を共有し、連携できる体制を築いていこうと、国立がん研究センター希少がんセンターに続いて、大阪国際がんセンター、九州大学病院、そして名古屋大学医学部附属病院が希少がんの診療・研究拠点となるべく希少がんセンターを設立しました。しかし、これだけでは全国各地の希少がん患者と、診療を実施している医療機関を結ぶことはできません。いまだ治療成果の共有もしづらい状況です。そこでさらに北海道大学病院、東北大学病院、岡山大学病院なども拠点となって希少がんセンターを設立しようとしており、これらの計7病院が拠点病院として力を合わせて希少がん診療の連携を築くための努力を行っております。

 

――全国に希少がんの診療研究拠点が作られる中で、名古屋大学医学部附属病院に希少がんセンターを設立した背景を教えてください。

 

西田 当院の小寺泰弘院長が、国のプロジェクトである希少がんの診療ガイドライン作成に携わっており、国立がん研究センター希少がんセンターとの協力体制があり、情報も共有していたというベースがあります。

 

 私自身は整形外科として肉腫を専門としており、県内に肉腫センターはあっても、希少がん全体をカバーする拠点がないことを問題だと感じていました。

 

横山 私は肝胆膵外科医として主に後腹膜肉腫の手術を数多く担当してきました。「後腹膜肉腫の診療ガイドライン」作りにも携わっており、希少がんについて病院として何らかの取り組みを始める必要性は感じていたんです。そうした中で2021年、小寺院長から希少がんへの取り組みを具体化しようと持ちかけられ、約1年の準備ののちにセンター化に漕ぎつけました。

 

――名古屋大学医学部附属病院や愛知県内において、センター設立前の希少がんの診療はどのようなものだったのでしょうか。

 

横山 希少がんについてはいまだエビデンスが十分でなく、どう治療を進めてゆけば良いのか迷う医師も多いと思います。私はそうしたなかでも手術による治療が最善であると信じて、可能な限り積極的外科切除を行ってきました。その中には腹部を覆い尽くしてしまう巨大な腫瘍や大血管を巻き込んで開胸開腹による人工心肺下での切除が必要な症例もありました。これらの多くは、他施設で切除不可能と判断された症例になります。

 

 さらにセンター化に向けて当院の関連外科病院へ声をかけると、治療に困った希少がんの症例が数多く寄せられるようになりました。一般的な外科医のキャリアで考えると、希少がんにはだいたい23年に1度遭遇する割合だと思います。全く見たことがないわけではないけれど、積極的に治療に関わって知見を蓄積できるような頻度ではありません。さらに希少がんに関する論文のデータもそれほど多くなく、参考にできる資料が乏しいという現状があります。たとえば後腹膜肉腫の中で最も頻度の高い脂肪肉腫では、手術を行っても再発率が非常に高いという特徴があります。一方で再発後の再手術も可能で、後腹膜脂肪肉腫では、同じ患者さんを8度手術した例もあります。そうすることによって寿命が延びると信じています。そもそも再発腫瘍を切除しなければ、この腫瘍はどんどん大きくなります。一般的に後腹膜肉腫に対しては抗がん剤や放射線治療の効果は限定的であるため、手術をしなければあまり長い寿命は期待できません。こうした例を考えると、5大がんと同じ「がん」というカテゴリーでまとめられないほど、希少がんには特殊な部分があると思います。

 

 国の取り組み、全国的な展開、そして小寺院長や私、西田先生といった専門医の問題意識によって、2022年名古屋大学医学部附属病院に希少がんセンターが開設されました。

 

 ――希少がんセンターをどのように立ち上げましたか。

 

西田 センターを立ち上げるにあたって、院内のさまざまな科に声をかけ、代表委員を募りました。希少がんと聞いてもピンとこない科も多い反面、積極的に手を挙げてくれる医師も少なくなかったですね。これまで希少がんの診療や手術を行ってきたのに情報を共有できなかったという声もありました。まず院内では、バラバラに行われていた診療実績を共有して、エビデンスを積み上げていきたいです。

 

 

 

 

 

 

 

【愛知】県内外の拠点をつなぎ有益なフィードバックを継続する-横山幸浩・名古屋大学医学部附属病院希少がんセンター長らに聞く◆Vol.

 

希少がん手術年間75例、ホットラインやHPを通じ診療情報の共有と提供に尽力

 

 「希少がん」と総称される悪性腫瘍には、実に200種類近い種類がある。各々の症例が少ないために、情報が蓄積・共有されず、診療できる医療機関も限られている。希少がん患者はこれまで、適切な情報や自身のがんを治療対象とする医療機関を探してさまよっていた。この状態を改善すべく、国は希少がん対策を開始し、名古屋大学医学部附属病院も希少がんセンターを設置した。センターにおけるホットラインの役割や目的、また地域の医療機関との連携について、同センター長の横山幸浩氏はじめスタッフに展望を聞いた。(2024219日インタビュー、計2回連載の2回目)

 

 

――名古屋大学医学部に希少がんセンターがあることのメリットや強みは。

 

横山 当院はもともと希少がんである肉腫や神経内分泌腫瘍の治療を数多く行っています。またがんゲノム医療中核拠点病院でもあるので、希少がんのゲノム変異に対する薬剤の選択などを進めやすい環境にあります。さらに、希少がんが多く含まれる小児がんの拠点病院でもあるので、これらの部門と希少がんセンターが院内で容易に連携をとることができるのは大きなメリットであると感じます。

 

さらに当院はハイボリュームセンターと呼んで良いレベルの、手術件数の実績があります。後腹膜肉腫について言えば、世界的にも年間10例の手術実績でハイボリュームセンターと言われますが、昨年は60例以上の手術を実施しています。希少がんにおいては、ハイボリュームセンターでの治療が望ましいと言われていますから、その意味でもセンターを設置してそこで治療を行う意義はあると思います。

 

西田 一般的にがんセンターには、心臓外科や循環器内科が併設されているケースが少ないので、当院はその面でメリットがあるかもしれません。たとえば希少がんの中には、心臓腫瘍というものもあるんですよ。こうした分野の診療においては、当院の意義を発揮できると思います。

 

――希少がんセンターにはホットラインも設置されていますよね。

 

酒井 センター内に専用相談窓口「希少がんホットライン」を立ち上げました。患者さん、そのご家族、または医療者の方から問い合わせをいただき、疾患情報や診療を行っている医療機関などをご紹介できるように整えています。患者さんはもちろんですが、地域の医療機関をつなぎサポートできるようなセンターでありたいと思います。

 

看護師 20228月から1年間で164件の相談がありました。患者さん本人とその家族からの相談が大半ですが、医療関係者からの相談も3件ありました。あくまでも匿名の電話相談であり、相談後の治療については調査できないのですが、相談から当院でのセカンドオピニオンにつながった例もあります。

 

 一方で「相談によって不安が軽減された」「現在の状況を客観視できた」というお声を相談者からいただきました。患者さんやその周りの方が、自分や自分の治療を見つめ直し、次の行動や選択をするきっかけになっているとしたらうれしいですね。

 

――ホットラインの課題は何ですか。

 

看護師 全国の希少がん診療を受けられる施設をつないだシステムがあるのですが、全てが集約されているわけではありません。地域によっては情報が少ないのが実情です。そのため、自分の手で一つひとつ医療機関を調べたり、確認をしたりしながら、情報提供をしています。県内はもちろん、東海地方の希少がんに関する情報がもっと集約されて、もっと有益なフィードバックができるようにしたいと思っています。

 

酒井 ホットラインが置かれている全国の他の希少がん拠点も、同じような課題を抱えているようです。国立がん研究センター中央病院を中心として全国のホットラインの連絡会議が数ヶ月おきに開催されているのですが、他県や地方の情報を得るのが難しく、たとえば都市圏から離れたところにいらっしゃる患者さんに、通所治療できる場所を紹介できないという悩みがあります。こうした各所の共通した課題を抽出して、解決に向けて知恵を出し合っています。

 

看護師 私は、希少がん相談員として、国立がん研究センター希少がんセンターのセミナーや学習教材を使用して希少がんについて学んできました。現在も継続して日々知識の習得に努め、院内の先生のご協力を頂きながら学んでいます。

 

――県内や近隣地域のがん診療拠点との連携が、さらに求められますね。

 

横山 愛知県がんセンターと協力して、愛知県内のがん診療拠点からメンバーを集めて、ワーキンググループを作って、希少がんの診療や研究についてどんな取り組みをしているのかをシェアし始めました。今までは、医師個人レベルで「あの先生はこの治療をしている」という情報や付き合いがあったのですが、それでは点と点がつながるだけ。組織単位で取り組みを把握し、連携体制も築いていかなければ、サステナブルな仕組みにはなりません。まずはお互いの顔を知り、その輪を広げ、エリア全体の治療情報をつなげていかなければならないと思います。

 

――希少がんに関するセミナーや勉強会などは行われていますか。

 

西田 国立がん研究センター希少がんセンターは、2週間に1回ほどの頻度で勉強会を行っています。かなり頻繁に、非常に幅広いテーマで勉強会が開催されてきました。私たちも地域の医療者や情報が必要な方に向けて、何らかのセミナーなどを開いていきたいと思っているのですが、テーマ選定が難しいところです。希少がん全体の総論的なテーマが良いのか、個別のがんにフォーカスすべきなのか。希少がんと一口に言っても、あまりにも広い範囲に及ぶので、どんなセミナーが求められているのか、誰が登壇できるのか考えていきたいところです。

 

――希少がんセンターの今後の展望は。

 

酒井 ホットラインだけでなく、HPの充実を図ろうと計画しています。検索数の多いキーワードに紐づける形で、代表的な希少がんの紹介や、他地域のホットラインなどのリンクを作り、患者が自ら情報を得やすくなるような形を考えています。電話とインターネットの両方で、必要な情報にたどり着ける窓口を強化したいです。

 

看護師 まだまだ窓口への相談件数は少ないと感じます。でも一方で、自分の病気について説明するのが難しいというのもよくわかります。「うまく相談できないかもしれない」と思い、相談をためらってしまう人もいるでしょう。そうした方にも、まずは不安な気持ちを吐き出す窓口として認識していただき、患者さんが医療機関を探してさまようことのないよう、サポートしていきたいです。

 

横山 地域の医療者の皆さんには、希少がんという疾患を認識し、適切な医療機関に紹介していただければと思います。その一つとして当センターのことを知っていただき、ホットラインやHPといった窓口を活用していっていただきたいと思います。当院としても、希少がんに関わる医療者の方により有益な情報を提供し、また診療に取り組んでいらっしゃる医療者や施設と連携を深めていきたいと思っています。

 

◆横山 幸浩(よこやま・ゆきひろ)

1992年名古屋大学医学部卒業。大垣市民病院、愛知県済生会病院、春日井市民病院などを経て、2023年より名古屋大学医学部附属病院希少がんセンター長。日本消化器外科学会専門医、指導医、がん治療認定医、日本肝胆膵外科学会高度技能指導医など。日本サルコーマ治療研究学会(JSTAR)評議員・理事、日本消化器外科学会、日本肝胆膵外科学会、日本臨床外科学会、日本外科感染症学会評議員など。

 

◆西田 佳弘(にしだ・よしひろ)

1988年名古屋大学医学部卒業。2018年より同大附属病院リハビリテーション科、病院教授。日本整形外科学会専門医、代議員、認定骨・軟部腫瘍医、がん治療認定医、がん治療暫定教育医、日本リハビリテーション医学会専門医、指導医、代議員、日本サルコーマ治療研究学会(JSTAR)理事、日本結合組織学会理事、日本軟骨代謝学会理事など。2021年より名古屋大学医学部附属病院希少がんセンター副センター長。

 

◆酒井 智久(さかい・ともひさ)

2008年滋賀医科大学医学部卒業。2020年より名古屋大学医学部附属病院、病院助教。2021年より名古屋大学医学部附属病院希少がんセンター病院助教。

 

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