診療ガイドラインとは―どのように作られ、使われるか

ガイドラインとは

厚生労働省委託事業 公益財団法人日本医療機能評価機構Minds * では、診療ガイドラインを以下のように定義しています。
* 公益財団法人医療機能評価機構Minds…公益財団法人医療機能評価機構が運営している、診療ガイドラインと関連情報を公開しているWEBサイト

診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその相対評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書。

(福井次矢・山口直人監修『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』医学書院.2014.3頁)

医学においてエビデンスとは科学的根拠のことです。つまり、診療ガイドラインとは科学的根拠に基づいて、順序立てた手法により作成された推奨を含む文章ということです。

どうして診療ガイドラインが作成されるようになったのか

診療ガイドラインが作成される以前は、同じ病気の患者さんでも個々の医師や病院によって治療法が異なることがありました。しかし、診療の質の向上と均てん化を実現するために、最低限必要な治療法や現段階で最も有効な治療法を、科学的根拠を基にして示したものが必要という意見がさまざまな場面で上がるようになりました。そのような中で、診療ガイドラインが作成されるようになったのです。
診療ガイドラインは、科学的根拠に基づいた治療法を第一に推奨していますが、医療者の経験を否定するものではありません。日々の診療は、エビデンスに基づいた診療ガイドラインと医師が自身の経験から得た知識を考慮しながら行われています。

診療ガイドラインはどのように作成されるのか

診療ガイドラインは学会などの組織が中心になって作成されます。概ね、以下のような流れで作成されます。
診療ガイドラインを作成する病気の診療内容を整理し、そのなかから重要だと思われる臨床的課題を設定する。これをクリニカルクエッション(Clinical Question; CQ)という。
決定したCQについて、発表されている研究論文を端から端まで拾い上げる。そして、拾い上げた研究論文を専門家が詳しく読み込み、重要度の高いものを選んでまとめ(システマティックレビュー)、それをもとに回答(Answer; A, 検査方法や治療方法など)を作成する。
診療ガイドラインで推奨される治療法や検査法はこのように決定されます。

診療ガイドラインはどのように使用されているか

診療ガイドラインは、それぞれの病気について標準的と思われる治療方針を最新のエビデンスに基づいてわかりやすくまとめたものです。そのため、診療ガイドラインを読むことで、医師は推奨されている治療をすぐに知ることができます。多くの臨床現場で高い診療レベルを保つツールとして、診療ガイドラインは使用されています。
また、看護師や薬剤師といった医師以外の医療従事者や、患者さんとその家族も診療ガイドラインを読むことで、しっかりとしたエビデンスに基づいた標準的、かつ推奨すべき診療内容を知ることができます。最近では、より患者さんや家族にわかりやすい内容の「患者さん向けの診療ガイドライン」も作成され始めているのです。
診療ガイドラインで推奨されている診療内容は、現段階でもっとも有効な治療法です。しかし、患者さんに対してその治療を受けるべきと強制するものではありません。あくまでもガイドラインは基準の1つです。臨床現場では個々の状況(患者さんの意思や生活環境など)を考慮した上で、患者さんと主治医との意思決定の際の判断材料として使用されています。

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学教授小寺 泰弘 医師

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学教授
小寺 泰弘 医師

名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学教授であり、胃癌外科のエキスパート。日本胃癌学会理事として長らく学会誌編集に注力し、ガイドライン作成委員として「胃癌治療ガイドライン」の作成に携わる。日本癌治療学会理事としてガイドライン作成・改定委員長も務める。

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